読書・映画日記 -2024年1月

📕もしもし、アッコちゃん?〜漫画と電話とチキン南蛮

著者:東村アキコ 出版:光文社(2023)
東村さんは1975年生まれ、私は78年(早生まれ)と歳がかなり近く、こういった昔話を読むと「分かるわアー(ごっちゃん顔)」となる。また、うちは母が大分というのもあり、地域的もほんのちょっと分かる…気がする。さらに、私も地方のスパルタ個人塾で美大受験をしたので、行った美大は違えど『かくかくしかじか』は涙なしには読めなかった。ということで、勝手ながら、東村さんにはむちゃくちゃ親近感を抱いている。
そして今作もとても面白かった。東村さん、記憶力すごい。自分の過去の記憶まで引っ張り出されてくるくらい、リアルにあの頃の空気感だった。確かに私たちは昭和に生きていたんだな……。
あと行動力もすごい。東村さんって面白エピソードがめっちゃあるけど、あれはあの行動力の賜物だと思う。犬も当たれば棒に当たるとはよく言ったもので、どんな犬も歩かなきゃ棒には当たらないし、棒に当たらなきゃ面白エピソードなんてそうそう生まれないのだ。今作では宮崎空港のくだりにめっちゃ笑った。ああいう危機的状況における他人同士の一体感ってなんなんだろう。
新年早々、元気になれる一冊でした。
余談:宮崎のお隣、大分では鶏天が有名で実際私も好物なんだけど、私の中ではあれもムネ/モモ論争があると思っている。私もダンゼン皮なし胸派ですよ先生!
(鶏天はいまや讃岐うどん店にもあるので香川でも結構見かける。昔はなかったと思うんですが)
(2024年1月1日読了)

📕名前のない鍋、きょうの鍋

著者:白央篤司 出版:光文社(2023)
いろんな人の台所でいつもの気張らない鍋を作るさまをレポートする…というのはありそうでなかった一冊(実際に調べたわけじゃないので嘘だったら申し訳ない)。有名な作家やエッセイストなんかが自著の中で料理の手順を書いたりしてるのは結構あると思うけど、こういう市井の人がご近所のスーパーで買ってきたいつもの食材(既製品含む)で作るところから取材して書く……みたいなのは私は初めて読んだ。
文中には書かれてないけど、口絵の写真を見ると、スーパーで見たことのある餃子だのポン酢だのが写っていて、なんか和む。まさに「名前のない鍋」だ。
人が何か作っている様子を見るのが好きなので楽しかった。うちも今晩は鍋にしよう。
(2024年1月2日読了)

📕誰も語らなかったジブリを語ろう

著者:押井守 出版:徳間書店(2017)
同時代に現場にいた人のいち証言として面白かった。押井さん自身のことは割と苦手なので(ウワー男尊女卑〜って思う)、若干「はあ?」みたいなところがありつつも、サクサク読了。
そういうことかーと納得するところも多々あり、まあ確かに、『紅の豚』以降のジブリは好きではない理由がはっきりしたのはよかった。駿は天才だし好きだけどアレとかアレは何やったん…?みたいな作品が多かったですよねそういうことか鈴木敏夫!!!という気持ち。
ジブリがすっかりブランド化したインナーサークル、こわいけど、でも腑に落ちた。そういえば去年(かな?)調布で『耳をすませば』をリバイバル上映してて見に行ったんだけど(目当ては『On Your Mark』だよ!)、映画館の廊下に鈴木敏夫のコメント&サインが飾ってて、見に来てる人たちがズラーっと列をなして写真撮ってたのがホラーだったなあ……。
押井さんじゃないと言えないよね、ということも多々あり、とても興味深かった。何にせよ批判が出ないって不健全だから、こういう内情を語ってくれるのは貴重だと思う。まあ偏ってるとは思うけどそれは当然なので。
ちなみに駿の作品では『紅の豚』が一番好きです。あとは、ナウシカの原作。
(2024年1月3日読了)

📕映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ−−コンテンツ消費の現在形

著者:稲田豊史 出版:光文社新書(2022)
いっとき話題になった「現代ビジネス」のweb記事を書いた人の本。この本は、現状はこう→だからこうしよう、という提案はないので、なるほどなーという感じ。想像していた通りの内容ではあったんだけど、それなりに暗澹とした気分になってしまった。
以前、東京の映画専門学校の授業の手伝いを2年くらいやってたことがあるけど、この本に出てくる倍速視聴が普通の最近の若者たちは、そこで出会う学生たちの姿とかなり近しい印象だった。
他者との摩擦を極端に避け、批判を嫌い、自分の興味のないものは存在しないことになっており、なによりも、圧倒的に余裕が……有体に言えばお金と時間がない。そして「自分が面白く感じない作品は作品が悪い」と言い切るなぞの傲慢さ。そして自己評価の低さ。
なんというか、人間には自由になる時間が必要だなと思った。
この本でも指摘されていたけど、彼らに余裕がないのは彼ら自身のせいというよりも、社会の仕組みの問題だ。倍速試聴は結果であって原因ではない。だからもちろん私も彼らを責める気にはなれない。結局は政治が悪いんじゃねえかと思う。
著者は最後に、倍速視聴は映像鑑賞の新しい一つのバリエーションに過ぎないと述べている。まあ、それはそうだろうなと思う。確かにいちバリエーションではある。
でも、そのバリエーションは、文化が発展する方向ではなく、滅びる方向に向かっているような気がする。仮に人間が一秒あたりにより多くの情報を得ることができるように進化(?)したとして、果たして何か新しいものが生まれるのかなあ?
要するに、資本主義は文化を殺す、というのに尽きるんじゃないのか。私たちはいま文化が死んでいくのをぼんやり眺めているだけじゃないのか。
それとも、こんな憂鬱はただの郷愁みたいなものなのかな?
(2024年1月4日読了)

📕青春を山に賭けて

著者:植村直己 出版:文春文庫(1984)
昔読んだかもな……と思って手を出したら果たして読んでいた。
とにかく若さが眩しい。若い頃にしか書けない本だと思う。色んな良い人たちに出会っているけど、それを引き寄せたのは結局は本人の行動力。小田実の『何でも見てやろう』を思い出すけど、ぐんぐんと進む推進力はすごい。
今の時代に読むとさすがに古臭く感じる(かつ、そりゃあかんやろ…と思う)ところもあるけど、面白かった。
(2024年1月11日読了)

📕みんなの民俗学 ヴァナキュラーってなんだ?

著者:島村恭則 出版:平凡社新書(2020)
民俗学はなんとなく好きで宮本常一の『忘れられた日本人』は愛読書のひとつ。なんだけど、じゃあ改めて民俗学って何? なんで好きなの? って聞かれるとよくわからないので読んでみた。
結果、ものすごく面白かった。民俗学やりたい!
世の中の中心である啓蒙主義や覇権主義の反対……というか周縁にあるものが民俗学という話がすごい腑に落ちた。別に伝承や古い風習を調べることだけが民俗学ではなく、世の主流から取りこぼされてしまうもの、放っておいたら教科書や歴史書には残らないもの、だけど個々人には大事なもの、そいうものを掬い取るのが民俗学なのかなあと。それって無茶苦茶パンクじゃないか……! めっちゃ好きです。
社会の周縁を無視することは、全体主義に突き進む道なんじゃないのか。だから今のこういう世の中こそ、民俗学ってものすごく必要なんじゃないのかなあ。世の中が効率至上主義になりかつての物語が失われていけばいくほど、逆にナイーブにカルトに惹かれる人が増えていくようで危なっかしい。あちこちにちらばる情報…というか物語を、マッピングし直す必要があるんじゃないのかと思ったりする。
とはいえ、民俗学の本を読んでいると、なんだかんだいって古い話も多くどうしても男尊女卑的だったり人権や公共の福祉的にはどうかという話も多い。その辺も踏まえて、民俗学勉を強したいなあ。
「おわりに」におすすめ本を紹介してくれてるので、どんどん読んでいきたい。
(2024年1月17日読了)

📕プロジェクトヘイルメアリー(上)(下)

著者:アンディ・ウィアー 訳者:鷲尾直広 出版:早川書房(2021)
筋はとっても面白く、次はどうなるかが気になって、読み始めたら上下巻一気に読んでしまった。
……んだけど、面白かったんだけど感動はしなかった。物語の構成や、どんでん返しや、バディものとしての展開は熱いんだけど、なんか…なんだろうね……? 世間の評判もすごく高いし賞なんかも獲ってたので期待し過ぎたかなあ。
SFものといえば、映画だけど『インターステラー』が好きなので、それと比較しちゃう。この本は出てくる人間一人一人が厚みに欠けてるように感じる。みんなその役割をやってるだけの書き割りみたいに見えちゃう。……うーん、単純に好みの問題かもだけど。
私は、あっと驚く筋書きやトリックよりも、その物語の中で人物がどのように振る舞うか、変化するかを見るのが好きなので、この本は合わなかったのかも。
『インターステラー』は、人間に対する信頼があるんだけど(すれ違ったり裏切られたりいろいろするけど、でも何よりも愛だし、人間性のためにたたかうのだ)、この物語はそういうのではない。いやもちろん、主人公は一人孤独に人類のために宇宙で一生懸命なんだけど、なんか具体性がないんだよなあ……。
あと、すごい根本なんだけど、そもそも主人公の扱われ方が結構酷いと私は思う。え、それでいいの? というのが引っかかって集中できなくなっちゃった。いやまあ現実はこんなもんだと言われたらそうなんだけど、はあ、そうですかという……。
でも読み物としては面白かったです。一切の前情報を入れずに読んでみてください。数年内に映画化もされるっぽいです。
(2024年1月21日読了)
 

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