読書・映画日記 -2024年2月

📕越境芸人

著者:マキタスポーツ 出版社:徳間書店(2018)
新潮の「考える人」で連載している「土俗のグルメ」がすごく好きなので、過去の書籍も読んでみた。
申し訳ないことにマキタスポーツさんのことはほぼ何も知らないんだけど、物事を斜めから見る(見てしまう)ややこしい感じは好き。特に本誌は後半に行くほど面白かった。
なんかちょっとずれるのかもしれないけど、「大衆」に対する目線が新鮮だった。芸人というのは常に「大衆」相手にしているわけで、私にこの視線はなかったなと。
世の中というのは一部の悪い人がいてその人たちのせいで色んなことが良くならないんじゃないか、そして世の人の多くはそれを苦々しく思ってるんじゃないかと私は漠然と思ってたんだけど、そうではないのかもしれないなーと思ってしまった。
それがいいとか悪いとかではなくて、世の中はそもそもそういうもんだったのかもと。
世間に対する引いた目線って必要だなと思った。
(2024年2月1日読了)

📕本のエンドロール

著者:安藤裕介 出版社:講談社文庫(2021)
本好きなら読んで損のない一冊。全く事前情報を入れておらず、なんかエッセー的な本かと思ったら小説で驚いた。けど面白かった。本ってこんなふうに作られてるんだね…。
デザイナー時代、本やパンフレットも作っていたので、ちょいちょい印刷に関わっていたけれど、実際のところはほとんど何もわかってなかった。会社の近所の印刷工場をチラッと見せてもらったこともあるんだけど、なかなか印刷について相談するほどの案件ってあまりなかったし(悲しいかな予算がつかないと印刷屋さんに相談するほど凝ったことはできないというのもある)。
ということで、この本を読んで、改めてなるほどなあ…と思ったのだった。私が関わった本たちも、誰かが刷って作ってくれたはずなのに無知すぎた。もっと積極的に印刷屋さんとお話ししておけばよかったなあ。
私が読んだのは文庫版だったけど、これから読む方には単行本がおすすめ。後書きの後に紙の種類など仕様を書いてくれてるので味わったほうがいいはず。
お仕事がんばろうぜという気持ちになる。
(2024年2月2日読了)

📕猫を棄てる 父親について語るとき

著者:村上春樹 絵:高妍 出版:文藝春秋(2020)
村上春樹は好きだけど、猫に残酷そうなタイトルが辛すぎて敬遠していた。でも結果として猫は棄てられないので、その辺が心配な方は安心して読んでいただきたい。……最後の白猫の話は切なすぎるけど。
村上春樹が好きになったのは大学生の時、近代文学の教授に勧められたのがきっかけで、初めて読んだのはデビュー作の『風の歌を聴け』だった。たしかその本で鼠が「一般論では人は救われない」みたいな話をしていたと思うんだけど、まさにこの『猫を棄てる』もそんな話だった。一般論ではない、実に個人的なささやかな話。でもだからこそわかる。個々人の体験は異なるし、そういう意味では全くわからないんだけど、でも誰だって個人としてしか生きられないというまさにその一点において、とてもわかる(「わかる」とか「共感」とかいうのとはちょっと違う気もするんだけど)。
短くてさらっと読めるけど、何だか余韻の残る本だった。
絵も素敵。
(2024年2月10日読了)

📕マンガ入門

著者:しりあがり寿 出版:講談社現代新書(2006)
副題が「表現したい人のための」とあり、なんだか大学の授業みたいな本だった。表現するってどういうことなのか、漫画とはどんな手順でどのように描くのかとか、売れる売れないとはどういうことなのかを解説。さすが元大企業の社員。マーケティング寄りで残念みたいな口コミもついてるけど、漫画であれイラストであれ文章であれ表現で生きていこうと思ったら売れないとどうしょうもないわけで、その辺は生業にしたい人にとってはとても大事なポイントだと思う。
しりあがりさん本人の学生時代、会社員時代、漫画家時代、それぞれの当時の話も面白かった。特にヘタウマの話が興味深い。湯村照彦や糸井重里ってこんな空気の中で受容されたんだなあと。
いまはネットも電子書籍もあるので昔の作品は概ねなんでも読めるけど、でも、その作品が発表されたその時代、それがどのように世の中に受け止められたかは、今では絶対にわからない。だからこういう当事者の話ってとても貴重だと思う。
先日読んだマキタスポーツさんの話もそうだけど、表現という行為は自分と大衆のせめぎ合いみたいなところがある。表現と言われるとつい自分のことばっかり考えがちだけど、それが世の中にどのように受け止められるかも考える必要があるんだなと。当たり前のことだけど最近よく思う。
……だからと言ってマーケティングに全振りされるとウエッてなるんだけども。
(2024年2月15日読了)

🎬イレイザー[Eraser]

監督:チャック・ラッセル 脚本:トニー・パーイヤー、ウォロン・グリーン 出演:アーノルド・シュワルツェネッガーヴァネッサ・ウィリアムズ 公開:米日(1996)
難しいことは考えんなよ! シュワちゃんと一緒にスカッといこうぜ! みたいな映画。90年代のノリの良さで最後まで飽きさせない、ポップコーンムービー的なやつ。でも最初のチンピラがのちのち役に立ったり、結構ちゃんとしてる印象。
監督のチャック・ラッセルはジム・キャリーの『マスク』も撮った人だったんですね。テンポが良くておさすがでした。面白かったです。
(2024年2月22日鑑賞)

📕「体軸」「足バネ」ランニング法 《パフォーマンスが劇的に変わる》

著者:手塚勇輔 出版:ベースボールマガジン社(2020)
足裏アーチをうまく使って走るにはどうすればいいか考えていたので読んでみた。本を読んで自分の体を確認したら、股関節が硬かったことに気がつく。それで腰痛が出てたのか…。ということで股関節ストレッチを取り入れることにしました。
この本だけですごいわかる!とかではないかもしれないけど、いやほんと軸と足裏はだいじだよね…というのに改めて気づけてよかったです。
関係ないけど、ランニング本のお仕事したいっすね。
(2024年2月23日読了)

📕 街場の成熟論

著者:内田樹 出版:文藝春秋(2023)
いろんなところで掲載された文章を集めた一冊。内田さんのブログで読んだもの、初めて読むものもなどうをいろいろ。気になったトピックスについていくつか列記。
  • 余人の語らぬことを語れ:
    • いやそうだな、気をつけよう…と思った。SNSでも現実世界でも、なんかどっかで聞きかじった誰かの言葉をうっかり口にしがちだが、それって本当に不毛。結果として他人と同じになることはあるかもしれないけど、頭を使わずツルッと誰かの言葉を垂れ流してるだけっていうのは、ちょっとよろしくない。いやマジで条件反射でものを言わないように気をつけよ…。
  • 勇気が大事:
    • 内田さんも書いてたけど、スティーブ・ジョブズの演説は本当によくて勇気づけられたクチなので、言ってること本当にわかります…という気になった。周囲がどんなに反対しても黙っていても自分が言うべきと思ったらいうべきだし、やるべきと思ったらやる。それだけのことが本当に難しい。だから本当に勇気が必要なんだな。友情努力勝利ではなく、一人で歩く勇気が。
  • 学びは補充ではない
    • 本当にそうなんだよな…。本来の学びは学ぶ前と後では別人になっている。あと、学ぶ人は学んだ後のことを予測できない。これが得られるから学習する、というのはただの取引なんだという話。すっごいわかる。効果効能ご利益大好き社会って本当に学びから程遠いんだよなあ…。
  • トラウマというのは簡単に言葉にできないこと:
    • 確かに傷ついたこととか辛かったこととか、とてもじゃないけど簡単に言葉にできない。あと本当に言いたいこともすらすら言葉にならない。
  • ジェンダー問題:
    • セックスワークについての話はちょっと保留したい。世の中のどんな人格者も、ジェンダーの話なった途端に妙なことを言い出すおじさんって結構多いので、警戒して読んでしまう。特に前半は何だか物言いが乱暴な感じで集中できず、目が滑って頭に入ってこなかった。
      けど、身体そのものに尊厳がある、というのは同意する。今のよは放っておくと脳みそ至上主義になっちゃうから気をつけないといけない。身体は一番身近な自然だものね。
  • 小田嶋隆さんの話
    • しみじみしちゃう。ずっと連載や著作を読んでいたから、小田嶋さんが亡くなったのは一読者として本当に寂しい。いまでもいろんなニュースを見るにつけ、小田嶋さんなら何て言うかなと考えてしまう。
(2024年2月28日読了)
 

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