読書・映画日記 -2024年3月

📕本心

著者:平野啓一郎 出版社:文藝春秋(2021)
「分人主義」の新書を読んで以来気になっていた平野さんの小説をやっと読む。「自由死」を望みつつ事故で亡くなってしまった母と、ひとり遺された息子の物語。
主人公の暮らす社会や仕事のディストピア感がリアルでつらかった。舞台は2040年代だけど、ああ確かにこうなるだろうなというリアルさがある。社会の底の方から、ヴァーチャルな世界を、あるいは上流階級の生活を見ている切なさが堪らない。
でも、まあ、なんやかんやありつつも、主人公は母の死の悲しみをなんとか乗り越え、成長していく。それは運ももちろんあるけども、やっぱり彼をそのように育てた母(ならびに母に影響を与えた人々)の力が大きかったんだと思う。もちろん、最終的な決断はいつだって当人が行うんだから、それは主人公自身の、ひいては人間そのものの成長しようとする意思なんだろうけども。
最後の方の場面、主人公が今こそ母と再会したいと願う場面はよかった。彼の母はただ他者というだけではなく既に死者だけど、死者に向かって成長した自分を見せたいと願うのは、決して叶わないことだけど自然な心持ちだと思う。母と最後に別れた時よりも成長したからこそ、自分が成長した姿を見て母が喜ぶと思うからこそ会いたいと思うんじゃないんだろうか。ただの慰撫としての<母>ではなく、むしろ自分が積極的に労わりたい相手としての母。……それは母への愛なんじゃなかろうか。
最後の最後、の雀の姿はあれですね。行く川の流れは絶えずして、しかもももとの水にあらず。でもだからと言ってそれは悲しむべきものではないってことなんだろうなあ。
(2024年3月8日読了)

📕更年期障害だと思ってたら重病だった話

著者:村井理子 出版社:中央公論社(2021)
翻訳家でエッセイストの村井さんの闘病エッセイ。村井さんは心の師匠の一人なので、目についたらとりあえず読むようにしてる。
食道からのエコー検査とか、首と手首からのカテーテル検査とか、読んでるだけで身がすくむ……。でも検査や開胸手術を乗り越えてお元気になられたとのことで本当によかった。
子供の頃の入院や手術の話は胸がキュッとなる。大人だってつらいのに、子供には本当に耐え難いことだろうと思う。そんな辛い環境でも子供って周囲の反応を見て期待に過剰に応えようとするから、読んでて本当にいたたまれなかった。同級生に八つ当たりしてしまって後悔するくだりがたまらない。
健康って本当に大事だなと改めて思う。歳をとればとるほど…っていうとなんか年寄り臭いけど、でも本当に歳をとるほどに健康のありがたみがわかっちゃう。世の中いいことも悪いことも色々起こるけど、皆さんどうぞご安全に、ご無事で、健康でいてほしいなって思った。
(2023年3月25日読了)

🎬不適切にもほどがある

脚本:宮藤官九郎 放送:2024年1月26日 - 3月29日(TBS系列)
映画じゃなくてドラマだけど、まあたまには。
本作については開始当初からモヤモヤするなーと思ってたんだけど、夫が見てたので最終回まで一緒に見て、改めてこれはないなーと思った。クドカンは好きなんだけど、今回はちょっとだめだ。
特にこりゃダメだと思ったのが「フェミニスト」ということになっているサカエというキャラクター。フェミニストってPTA的なメガネのうるさいおばさんがキーキー言ってるんでしょ? とか、男女平等とかいっても結局男がいないのが寂しいだけなんでしょ? 的な扱いをされていて、目も当てられない。理解が荒すぎ&古すぎて引いた。
なんだかんだ言っていつもうるさいのは女で、男はその女にやり込められて不自由に生きてる被害者なんだから、女はもっと「寛容に」なれ。……というのがこのドラマ全体を通して宮藤官九郎が言いたかったことなんだなと思った。このドラマで笑われる道化や大きく扱われる加害者はみんな女(純子と渚だけは「家族」だから例外)。かたや男はパワハラしてても変なやつでも結局はいいやつ扱い。
いやあ、ひどすぎて笑っちゃうね。
テンポはいいし、ちょいちょいギャグは面白かったりするし、若者に明るい未来を……みたいなのはわかるんだけど、根本がそんなんだから全然頭に入ってこなかった。
必要なのは被害者側の「寛容」じゃなくて、加害者側の理解だろう。そして、理解できないならできないでいいから、それなら変な解釈せずに放っておいてくれよ、と思う。
なんていうか、こういうのってドーテー仕草とでも言えばいいんだろうか? ボク男の子なんです女の人怖いんです、世の中の女の人全員ママみたいにボクをヨシヨシして、みたいな感じ。
ど、ん、だ、け、女に甘えりゃ気が済むんだろう。大人になってくださいよ。
……ということを、これを機に言語化できたのはよかった。そこだけはよかったな、うん。
(3月31日視聴)
 

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